カメラを止めるな!
制作費300万円、無名の俳優、2館からの公開。それが興行収入31.2億円に化けた。仕掛けが有名になりすぎた今でも、構造の面白さは全く損なわれていない。
受賞後の報道で賛否が大きく分かれた作品でもあります。ここでは政治的な議論は脇に置いて、映画としてどう作られているかを書きます。
ネタバレについて:この記事はネタバレなしで書いています。結末や物語の核心に触れる内容は載せていません。
東京の下町、高層ビルに囲まれて取り残されたような平屋に、六人が身を寄せ合って暮らしています。日雇いの治、クリーニング店で働く信代、風俗店に勤める亜紀、少年の祥太、そして家主である初枝。彼らの生活は、初枝の年金と、店での万引きで成り立っていました。
ある冬の夜、治と祥太は団地の廊下で震えていた幼い少女を見つけ、家に連れて帰ります。少女の身体には虐待の痕がありました。返しに行った先で親の怒鳴り声を聞いた一家は、結局その子を「ゆり」として迎え入れます。
六人はにぎやかに、どこか楽しげに暮らしていきます。しかしある出来事をきっかけに、この家族が何であったのかが少しずつ明らかになっていきます。
六人で海に行くだけの場面。ただそれだけなのに、この映画でもっとも幸福な時間として置かれています。後半を知ってから見返すと、まったく別の意味を持つという点でも重要な場面です。
終盤、信代が質問に答える長い場面。感情が決壊するでもなく、静かに崩れていく芝居が圧巻です。多くの人がこの映画で最初に思い出すのはここだと思います。
細野晴臣の劇伴は控えめで、生活音のほうが前に出ます。泣かせにいかないことで、かえって直視させられる作りになっています。
普通は、選べないからね。
柴田信代(劇中の台詞より)
この映画がうまいのは、「家族とは何か」という問いを、答えを出さずに最後まで持っていくところです。血のつながりのない六人は、確かに家族に見える。同時に、彼らがやっていることは犯罪でもある。どちらか一方に決めさせない構造になっているので、観たあとで人と話すと意見が割れます。
演技のレベルが異常に高く、特に安藤サクラと樹木希林は、演技をしていることを忘れます。子役二人も自然で、説明的な台詞をほとんど言わない。「言わないこと」で人物を作るという点では、日本映画の中でも屈指の精度だと思います。
映像は地味で、狭い部屋の中を淡々と映すだけです。派手さはまったくない。そのぶん、終盤の一つの視線や、閉まるドアの音が強く残ります。余韻の点を高くしたのは、観終わってから数日、勝手に思い出してしまうからです。
観る人を選ぶ映画でもあります。カタルシスはなく、救いも用意されていません。また、社会的なテーマを扱っているぶん、この作品が日本をどう描いたかについては当時から議論がありました。そこも含めて観る価値がある作品だと思います。
血のつながりと、一緒にいることは、どちらが強いのか。
| 項目 | 点数 |
|---|---|
| 脚本 | 4.7 |
| 映像美 | 4.3 |
| 音楽 | 4.2 |
| 演技 | 5.0 |
| 余韻 | 4.8 |
第71回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞。日本作品としては1997年の『うなぎ』以来21年ぶりの快挙でした。受賞後に公開規模が拡大し、国内興行収入は45億円前後まで伸びています。
海外での評価は非常に高く、アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされました。一方で国内では、受賞をめぐって政治的な文脈での議論が起きた珍しい作品でもあります。作品そのものへの評価と、その周辺の議論は分けて考えたほうがいいと思います。
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